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14.遊び場利用者のシミュレーション

 


  今日、子どもの遊び場環境は多様化し、大きく変化してきている。子どもの遊び場環境充実の必要性が高まっている一方で、国内の遊び場は統計的に実際の利用者数などが十分に把握できている状況にない。こうした中、一部の統計的なデータがある公園をのぞいて、多くの地域において入場者数などが定量的に把握できていないことが多い。こうした施設の利用者数よ実測以外でカウントする方法として計算機によるシミュレーション等がある。 

 


 


14.遊び場利用者のシミュレーション

 

 


 公園などの遊び場空間には、はたしてどれくらいの人がやってきているのか、また合理的な計画配置はどのようになっているのか、こうしたことを分析するための都市計画の理論はまだ十分に整備されていない。 通常の街区公園などの小さな公園については年回どれくらい利用されているのか定かではなく、また近年町中にみられる監視カメラのようなもので管理されているわけではないのでどのくらいの集客性があるのか不明であるのが実態である。ここでは、特定の市を例にとって、街区公園の分布状況、地域的な特性などからどれくらいの利用者数が想定されるのか予測する手法、シミュレーションについて解説する。

キーワード:遊び場空間,シミュレーション

 

14.1.遊び場利用のシミュレーション

遊び場の利用者数を把握する

 今日、子どもの遊び場環境は多様化し、大きく変化してきている。子どもの遊び場環境充実の必要性が高まっている一方で、国内の遊び場は統計的に実際の利用者数などが十分に把握できている状況にない。こうした中、一部の統計的なデータがある公園をのぞいて、多くの地域において入場者数などが定量的に把握できていないことが多い。公園は数も多く、無人のケースがほとんであるため、各公園の入場者数を定常的に把握する手だてがないためである。 

 そこで、ここではある特定の都市として神奈川県鎌倉市を想定し、このなかでの公園(特に街区公園)の利用者数を予測してみたものである。

 鎌倉市は概ね5つのゾーンに分かれ、その地域ごとのニーズや整備状況、特性についても差異があるものの、集客力に関する十分な検証は行われていない。

 これまで誘致力を試算するにあたって、魅力係数を単純に公園面積として公園の集客力を試算した研究事例などはある。ここでいう魅力係数とは施設の魅力の度合を数量化したがとよばれているものである。また魅力係数に関する研究には狩野,瀬楽,高橋,辻(19842)や位寄・両角(19953)などの研究がある。魅力係数をあてはめた事例としては宇治川,讃井(1995)4)によるスキー場の魅力に関する研究や市原(1995)5)による商圏と売上高予測に関する研究などがある。これらの研究において魅力係数は売場面積やスキーリフトの総延長距離等が用いられている。

 しかし、実際には公園の魅力については公園規模、遊戯施設、便益施設、管理施設などの要因が複合的にリンクしており、公園面積のみで魅力係数を判断することは本来は適切ではなく、施設価値を総合的に判断したうえでの推計が必要と考えられる。

 そこで、本研究においては、鎌倉市内の全遊び場公園を対象として、その魅力係数につき総合的に判断したうえで、その集客力について考察することを目的とする。調査の実施にあたってはアンケート調査および利用者層およびアクセス等から各公園への利用者の誘致力を重力モデル(ハフモデル)による誘致力の測定を行った。

調査概要

ここでは以下のような手順に従い、調査を実施した。

@鎌倉市内の街区公園の全数抽出しプロットする。

A公園施設の魅力係数に関し因子分析より検討する。

なお因子分析とは、あるデータをいくつか組み合わせて、その事象の特徴を定量的に把握する手法である。

B鎌倉市内の子どもに対して公園利用回数などに関するアンケート調査を実施する。

C公園利用者数のシミュレーションを行う。

 

14.2遊び場環境の分析

市内街区公園の調査

(1)区域の設定

 鎌倉市内にある街区公園および都市公園について全数調査を行った。表1に示す5つのエリアにおいて昭和51年から平成19年までに整備が行われた街区公園(181件)につき、都市計画図上にすべてプロットした上で(図14-8)、鎌倉公園マップ(鎌倉市民生委員会児童委員協議会主任児童委員連絡会)6)のデータをさらに付加し収集できるデータ全数を分析した。

 なお総合公園については源氏山公園、散在ガ池森林公園、鎌倉中央公園など域外からの集客力が非常に強く、今回の検討からはずしている。(256)

(2)抽出公園の設定

 なお、子どものための遊び場の中心的な位置をしめると考えられる住区基幹公園については、規模として図14-1に示すような整備のイメージとなる。また各地域での年少人口、生産年齢人口、若年者の利用者数は、老年人口の構成の割合については、表14-1のようになっている。地域ごとの年少人口の比率を掛け、予測年少人口を算出した。(0才〜14才までの年少人口数を地域ごとに算出)

            

 14-1鎌倉市の年齢構成比(2007.12

 

 

 

 

 

 

 

(3)公園の魅力設定要素

 公園がもつ魅力を判断する上でいくつかの指標について定量的に把握し数値化をめざす。ここでは敷地面積の大きさを@公園面積(u)、施設内容をA休養施設(パーゴラ、東屋・シェルター、ベンチ、スツール、野外卓数を点数とする)、B遊戯施設(ブランコ(踏み板)、ブランコ(タイヤ)スベリ台ジャングルジム鉄棒ラダーのぼり棒、砂場他の和を点数化、C運動施設(ストレッチ、健康器具他)点、D便益施設(ゴミ箱、吸い殻入れ、トイレ、時計)点、E管理施設(案内板、公園灯他)点により、定量化を行う。これらの各公園施設の公園面積、休養施設、遊戯施設、運動施設、教養施設、便益施設、管理施設の内訳は表2に示す内容である。なお個別データは表14-5に示すように公園面積についてはu単位、各施設内容については、その整備施設の数量を点数化し、各施設内容ごとの点数を抽出した(14-9,14-10)。これらの点数をまとめた例が表14-3である。

 

 

 

14-2各施設内容の詳細

 

 

 

 

 

 

14-3 鎌倉地区の公園の施設状況(抜粋) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この際抽出したデータについてさらに規準化することによって変数は無名変数になり平均値が0、標準偏差1のデータに変換される。この規準化した各公園の評価項目のデータを表したものが表14-4である。

 

 

14.3因子分析を用いた公園施設の分析

(1)因子分析と因子の抽出

14-4 市内公園データの規準化(抜粋)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に各公園について規準化したデータをもとに各公園の本質的な特性を分析するために、因子分析を行う。@休養施設、A公園面積、B遊戯施設C便益施設D教養施設について因子分析を行った結果、二つの因子が抽出された。(14-6)

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14-2 バリマックス回転後による因子空間のプロット

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

14-3 因子のスクリープロット

 

14-5 固有値および因子の負荷量の平方和

 

 

 

 

 

  表14-6 因子行列

 

 

 

 

 

 

14-5 因子得点係数行列(因子1:公園の収容力,因子2:遊戯機能)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この推定因子数のうち、固有値が1を超える因子は因子1と因子2の2つあり、さらに因子行列をみると大きく2つの因子が抽出された。(表14-5

初期の固有値をみると因子11.755個分の説明力を持ち、因子21.038分の説明力をもつと解釈される。ここではさらにバリマックス法(1)により、各因子が特定の変数と高い相関を得ることができるように因子軸を回転させ、より単純に説明力をあげることを図る。

 この結果、収容力を表す第1の因子として休養施設、公園面積を因子として捉えることができる。第1因子は約35%の説明力を持つと考えられる。一方、遊戯機能を表す第2の因子としては便益施設、遊戯施設、教養施設と捉えることができる。これらは公園としての遊戯機能を表す因子として20%の説明力を持つと捉えることが可能であろう。こうして求めた魅力係数は遊び場公園の様々なデータの集約として判断されるものであり、総合特性値として考える。

(2)総合特性値としての魅力係数の検討

 総合特性値としての魅力係数を計算する。ここで求めた因子得点行列は各共通データの重みづけに関連する数値と考えられる。この重み係数を各変数の規準値に掛け合わせて計算したものが因子得点である。これらの個別施設の数値は正規分布するものと考え、各因子ごとの重み付けである因子得点についてと累積得点は平均0、標準偏差1の単位のない数値となっている状態にある。

 この値は各因子ごとの得点を持って重み付けがなされた評価値であると判断され、確率密度関数に相当する。その場合、確率密度分布曲線の累積分を「魅力係数」として捉える。

 各項目データについて正規曲線がえがかれ、累積分は標準正規累積分数とすることによって、個別の項目ごとに標準正規累積分布を求める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14-4 因子得点の確率密度分布の累積分布

 

 図14-4は評価値に対して重み付けを加味して計算した後の累積分布の状況をみた図である。この結果、各施設の魅力係数は以下の表6のように計算される。

14-6 魅力係数の試算例

 

 

 

 

 

 

この結果例えば十二所公園は0.7664、十二所ひよどり公園は0.3135、東泉つばき公園は0.5291といった数値が魅力係数となる。

 

14.4アンケート調査の実施

 また、本研究を行うにあたって鎌倉市および周辺域に居住する幼稚園、小学生を持つ保護者に対してアンケート調査を実施し、遊び場としての公園の利用実態について把握を行った。

 鎌倉市内および周辺域において、幼稚園4園と小学校3校に協力を依頼し、幼稚園または小学校に通う子どもの保護者を対象にアンケート調査をおこなった。今回の調査では、保護者と一緒に公園に行く年齢の子どもを対象とするため、小学校には12年生の保護者への調査票配布を依頼した。配布数は1090票(幼稚園730票・小学校360票)で、回収数は716票(幼稚園507票、小学校209票)、回収率は65.7%であった。なお実施時期は200111月から20022月である。

14-7 公園の週間利用回数に関するデータ

 

 

 

 

 

14-5 平日の公園利用回数(1週間の利用回数)

  公園利用者層の公園利用回数をアンケートデータから集計した。アンケート調査によれば公園の利用回数比率は平均で週1.81回となっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

14-6 平日利用する公園までの交通手段と時間

 また、利用者の多くが、徒歩による利用であり、徒歩5分以内(400m圏)が54.1%、10分以内まで含めると(800m圏)が91.6%である。したがってここ以下では公園へのアクセスを徒歩に限定して検討することとしている。

 

14.5市内公園の吸引力

1)施設利用者数の予測

ここでは各公園の求めた魅力係数をもとに重力モデル(ハフモデル)を使用し、その入場者数について予測を行う。

F(利用者数誘致力)=

δ×(魅力係数×地域人口)/(施設と地区の距離)γ (1)

δ:参加比率 と表される。

 魅力係数を各公園の面積、地域人口を各地域ごとの年少人口数を想定して(1)式に基づき試算を行った。前述の鎌倉市内において実施したアンケート調査によれば参加比率δは週1.81回が平均となっている。このデータより(1)式はδ=1.81(回/週)で試算した。

2)時間距離の測定

 街区公園の誘致距離250m、面積0.25ha程度を標準とされ都市計画法、都市公園法等によって規定されており、徒歩34分圏、近隣公園については誘致距離500m、面積2haで徒歩、67分、地区公園(面積4ha)では徒歩20分圏内程度が目安と考えられる。

 今回の検討においては街区公園を想定し徒歩による利用者、各町丁目ごとの半径1km圏域内(徒歩12分程度)ごとの利用者のみを想定した。鎌倉市内の各行政区域の人口の重心から各公園までの直線距離(m)を全数測定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14-7各公園から人口集中地区への時間距離

 図14-7に示すように×印でしめされる各人口の集中地区から、公園までの実際の距離を測定した。

図の例に示すように83泉東つばき公園、152十二所公園、二つツ橋公園、114釈迦堂みみずく公園、二階堂公園などは隣接しているため、浄妙寺6丁目地区、東泉地区、などの複数の地区からのアクセスが予想され、互いに集客機能として、競合する施設となる。

 

14.6誘致力の予測

(1)モデルの仮定

 そこで各地区ごとの誘致力を予測するため、需給モデルを検討する。将来の交通体系については現況のままとし、現時点で想定施設が立地した際の入場者数予測とする。また時間距離、入場者数の需給モデルでは指数関数を通常の重力モデルとして指数はキャリブレーションを行い、その結果γ=2.0を採用した。なお、γ=2.0とおいた際の鎌倉市内あそび場公園全体の利用者数推計との誤差は0.825%であり、概ね推計として利用可能と考えた。

 この結果利用者の誘致力が試算され、各地域ごとに、利用者が吸引されると考え、週平均の利用者数が予測できる。。

(2)利用者数シミュレーション

 各地区ごとの誘致力を予測するため、需給モデルを検討する。将来の交通体系については現況のままとし、現時点で想定施設が立地した際の入場者数予測とする。実績値との比較などの結果から時間距離、入場者数の需給モデルでは指数関数として指数γ=2.5とおいた。この結果利用者の誘致力が試算され、各地域ごとに、利用者が吸引されると考え、週平均の利用者数が予測できる。その結果、各地区ごとの個別公園の入場者数予測が試算された。なお表14-8に鎌倉地域における推計値の抜粋を掲載する。

14-8 各公園の時間距離と利用者推計(鎌倉地域一部抜粋)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、同様に5つの地域について同様に推計を行う。

(3)分析結果

 この結果、例えば鎌倉地域内での十二所地区では、十二所ひよどり公園は魅力係数が0.3153であるが距離が300mと近く264.6人/週と予測することができる。規模的には十二所ひよどり公園より大である十二所公園(2,262u)は魅力係数が0.7664であるが、距離が840mと遠く、利用者数予測は82.5人/週である。以下同様にして、大船地域、腰越地域、深沢地域、玉縄地域などの利用者数の推計を行うことができる。

 

14.7公園の定量的評価の方向性

 公園の魅力は、単純な定量化は難しいが、今回は魅力係数を複合要素より試算を行った。公園機能についてエリアごとにその特性や求められる機能が異なっており、利用者数の予測が可能であること、また人口の集中度合や、アクセスに対応した遊び場の検討が必要であることなどが分かった。今後はモデル適応にあたってのパラメータの吟味や遊具・展開機能についてさらに精査し、分析を進めていく必要性がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14-8 鎌倉市における街区公園の整備状況プロット図

 

【補注】

(1)バリマックス法

  バリマックス法とは、因子が特定の変数とのみ高い相関を示し、他の相関とは0に近い数字となるように単純化する方法である。これは元の変数と因子の対応を強め、より単純に説明力をあげる働きをもっている。

 


14章のまとめ

 公園の魅力は、今回は魅力係数を複合要素より試算を行うことができる。公園機能についてエリアごとにその特性や求められる機能が異なっており、利用者数の予測が可能であること、また人口の集中度合や、アクセスに対応した遊び場の検討が必要である

 今後モデル適応にあたってのパラメータの吟味や遊具・展開機能についてさらに精査し、分析を進めていく必要性がある。

 


【参考文献】

14-1)川口和英,鎌倉市の子どもの遊び場公園の集客誘致力に関する分析,日本建築学会大会学術講演会(2008年年度中国大会),E-17005,pp9-10,2008.9

14-2)狩野紀昭,瀬楽信彦,高橋文夫,辻信一:魅力的品質と当たり前品質,日本品質管理学会誌「品質」vol.14,No.2,pp39-48,1984

14-3)位寄和久,両角光男:ファジィ解析を用いた都市内空地の心理評価構造分析 副題 都市内空地の魅力度評価に関する研究,建築学会計画系論文集No.467,p.105,1995.1

14-4)宇治川正人,讃井純一郎:スキーリゾート施設に対する利用者の評価に関する研究その1,日本建築学会計画系論文報告集, No.472, 1995.6

14-5)市原実,:商圏と売上高予測,同友社,1995

14-6)鎌倉公園マップ,鎌倉市民生委員会児童委員協議会主任児童委員連絡会,2001.3

14-7)市原実,:商圏と売上高予測,同友社,1995

14-8)川口和英,小泉裕子,長谷川岳男,柴村抄織,大石美佳,田爪宏二,高城義太郎,幼児の遊び場と子育てコミュニケーションに関する調査研究,子ども未来財団,2002.3

14-9)児童遊園・青少年広場・子供の遊び場位地図,鎌倉市,1985

 

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